列車に乗る
駅構内に着き、列車が出発しようとしていた。
躊躇したため乗り遅れた。
僕はその列車以外の列車があることや行き先がたくさんあることを知らなかった。
行き先を決めていないと、どの列車に乗っていいのかわからないことに気がついた。
とにかく列車に乗ればいいとだけ思っていたから。
僕は地図を広げて、目的地の確認をする。
その間も列車は絶え間なく構内に入ってきて、人を乗せ走っていく。
目的地の確認をしたが、僕がどこに居るのかを知らないことにも気がついた。
どこに居るのかがわからないと、どこから出発するのかわからない。
僕は、しっかり地図を見てその位置を確認した。
僕は行きたい目的地に居る僕を想像してみた。
その目的地におり立ち、初めて見る景色がどんな風に見えるのか。
そこから僕がどんなことをしていくのか。
そんなことを想像するとワクワクする。
その地に行ったことのある僕ならば、今どのようなことをするのだろうかも考えてみた。
常にその地にいる感覚で、列車に乗るまでの時間を過ごしてみる。
単なるワクワクではなく、少し重みを感じるワクワク。
これから、その目的地に行けることに確信を持つ。
構内を行き交う人々の中には、知った顔もいた。
時折、話しはするが、どうやら行き先は違うみたいだ。
僕が行きたい目的地と同じ列車に乗る人は、この構内には居ないようだった。
友人はとっくに列車の中。
追いつけるかわからないが後を追ってみようと思った。目的地が一緒だから。
旅支度が完璧に整っているわけではないが、目的地にたどり着く列車が来たら乗り込む。
もしかするとその列車が目的地に着く最後の列車かも知れない。
何度も間違えて、今の構内にようやくたどり着いた。
もう間違えたくない。
焦らず、慌てず、早く。
次の列車がやってくるアナウンスが構内に響いた。